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群 雄 割 拠

子供のころ住んでいた集合住宅には、各棟それぞれに、共有スペースがあった。

一棟に住んでいる40世帯が話し合いで割り当てを決め、花壇を作り、好みの植物を植えたり、野菜を育てていたりした。

我が家は3階だった。

ベランダから見下ろす我が家のスペースには、母の趣味で様々な花が咲いていた。

物心ついて気付くと、母の花壇が一番大きい。

土いじりに興味がないお家を除き、半数近い世帯で分けあったらしいのだが、明らかに不平等な状態だ。

母は、気が強い。

家庭内で振るう強引な采配を、外でも発揮しているのに違いない。

と思うと、子供心に申し訳なかった。

ある日思い切って、本人に聞いてみる。

「うちの花壇がひときわ大きいのは、まさかと思うけど、強引に・・・・・?」

人聞きの悪いこと言わないでよと言わんばかりに、母は言う。

「もらったのよ!」

えぇ~?!どなたに?

何でも、引っ越したり家族構成の変化で手入れが出来なくなったお宅の方から母に、「よかったら、使って」と申し出があったらしい。

ふ~ん。

(ホントかな?)

かくして徐々に領土が拡大。

我が棟一の大地主になったらしい。

母は典型的なO型だ。

男性並みにダイナミックな手法で、花壇の手入れをこなしていた。

まず、水やり。

ベランダから下を見て、階下のお宅が洗濯物や布団を干していないのを確認する。

そして、ホースの先を握りつぶして、蛇口をひねる。

勢いよく飛び出す水を、3階のベランダから真下の領土に降らせるという荒業を使っていた。

最初見たときには、度肝を抜かれたが、やがて私もやらされるようになり、それが我が家の当たり前になってしまった。

ある日学校から帰ると、花壇に小山が出来ていた。

あれ、何?

買ったのよ。

土壌改良のため、トラックで運び込んでもらったという。

それをスコップで、花壇に満遍なくすき込む。

山は一度きりでなく、何度か出現した。

母がその気になるまで放置された山で、友達とよく山登りごっこなどして遊んだのを思い出す。

母はよく言えば、おおらかだ。

縁日で買ってきたヒヨコが大きくなった。

母は小屋に入れず、ベランダで放し飼いにしていた。

ニワトリは、ベランダの手すりを歩いているうちに、風に煽られ3階から落下すること度々。

その都度階段を駆け下りて、連れ戻すのは、私の仕事だった。

あの・・・、一々面倒なんですけど・・・・。

と遠慮がちに訴えても、「閉じ込めたらかわいそうでしょ!」と相手にしてもらえない。

縁日でヒヨコを買ってくる度、同じことを繰り返していた。

そのニワトリ達は何故かいつも、突然姿を消す。

母に聞くと、「欲しいという人にあげた」という。

「もしかして、食べ・・・」

のど元まで出るが、怖くて聞けずに、今日に至っている。

領土の話に戻る。

「もらった」という母の言葉に内心疑問を持っていたが、その疑問が、確信になった出来事が起きる。

あるとき、母の花壇の通路を挟んだ隅っこに、小さな花壇が遠慮がちに出現していた。

どなたが作ったんだろう?

あれじゃ、植えられるものは限られる。

母が領土を分けてあげればいいのに・・・・。

と思ってしばらくしたら、母がそのプチ花壇に向かってかがみ、何かしている。

あっ!人様のものに、何を・・・?

帰った母に、問いただす。

「みょうがを植えてたの」

と、悪びれもなく、答える。

よその花壇に、勝手に・・・・。

責める私に、しれっと言う。

「あれ、私が作った花壇よ。」

!!

人一倍大きなスペースを独占していながら、更に広げるか・・・・?普通。

何処までも、我が道を行ける母が、羨ましい。

数年後、富里に引っ越すことになった。

母の帝国とも、お別れだ。

そうと知った数人の方が、お伺いにやって来る。。

「うちで使ってもいいですか?」

「どうぞどうぞ」と、気前よく頷く母。

そうやって、母の花壇は分けられていった。

これで少しは不平等が解消されたかもしれない。

ご近所の皆さま、申し訳ありませんでした。

母は、富里でも母、だ。

お隣の空き地に、またもや領土を広げているのだ。

地主さんから許可を頂いたとはいえ、少しは「遠慮」すべきなのではないか。

目一杯植えられた野菜や花々からは、その二文字のかけらも感じられない。

天国の父に、言う。

私、お父さんに似で、よかったよ。

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